それともうひとつ、陽気なドン・ファン、という印象も。「女を買うならアルファロメオ」ローマで、彼は二日ほど姿を消したと思ったら、アルファロメオのレンタカーで現爽さっそうとホテル声をかけた。私は、ずいぶん張りこんだものだと感心して、しきりにエンジンルムを覗のぞきこんでいる彼に「フィアットじゃ、君:::」彼は後ろを振り向きながら叫んだが、急に声をひそめて、「フィアットじゃ君ね、高級なコlルガルはひっかからないんだ。あいつらは車を見て寄ってくるからな。とウインクしながら言った。なんと彼は昨夜、ボルゲゼの公園で流しながら実験してみたと言うのだ。今は知らないが、その頃のロろしていた。特にボルゲゼという公園は溜まり場だった。しかし日本航空のクルーでそんなとアルファロメオだと、そこそこのが拾える」マには、町の角々に、そういうおねえさんが二、三人ずったむたころに出かける男はいない。興味はあっても、勇気がないから、そんなヤバイところには近寄らない。ただ一人、いつも本音で生きている安部譲二だけが、嬉々として出かけていき、そして例によって大自慢で報告してまわるのであった。ナオもちろん、ほかのパーサーたちは、また直のやつが、という顔をしながら聞いていたが:::。かぶ』のコあるいは、みだしな酒や料理、礼儀作法、紳士の身噌み、どれに対してもひじように上質の知識を持っていた。滞在先のロンドンで、彼は『ダンヒル』『シンプソン』『ウエッジウッド』『バーバリ』といった店に私たちスチュワーデスを連れて行き、商品の説明をしてくれるのだが、これが実にくわしいだけでなく、どんなものをどんなふうに使うのが粋なのか、ということまで教えてくれる。かぽたとえば、ベッカリ!という南米産の河馬の皮を使った手袋をつけ『ボルサリノ』のハットを被っている男にアプリ 出会い系 で会ったら、それは本物の紳士と思っていい、というようなことや『バーバリトは絶対に洗濯しないのがお酒落なんだとか、紳士服は『シンプソン』がいい、パーティに「オースチン・リド』のタキシードなんか着ていったひにはウェイタひろうか、おそらく両親から仕込まれたのであろう知識を、いろいろと披露してくれる。に間違われるとそのほか、シャツをオーダーする時は、スーツの一分の一の値段のものを頼むこと、その際、仕立上がりのシャツをすぐにクリーニングに出し、返ってきたら、シャツ屋に再度持って行くことです。

「みその」というのは、鉄板の上で焼くステーキを食べさせている店だ。月の終わりに来月のスケジュール表を提出させ、私がオフの日は必ず電話してくるので、七時半の電話は狂ったことがない。かくして、私の夜の予定は全部彼に押さえられてしまうのである。しーう私が東京にいる聞は、夜は必ず誘ってくる彼を見て、いったいほかのつきあいはどうなっているんだろうと、不思議に思わずにはいられなかった。それから彼の話題だが、これがひとつのことから離れない。すなわち彼は徹底して金の話しかしないのである。どこの土地がいくらしたとか、値上がりしたとか、何がいくらで売り出されているとか:::。いる。つまりデト中も仕事から離れようとしないのである。また、常に秘書が一緒だったが、私といる聞にも、絶えずこの秘書に仕事の指示を与え続けておもむこれは、どこにいても同じだった。そのうえ、呼び出された場所へ赴くと、たいてい数人の男たちが一緒だった。わらない陣笠じんがさ代議士連中。を頬ばった小佐野は、いつも上機嫌だった。欠かさず顔を見せていたのは、ある観光会社の社長。それと毎度顔ぶれは変わるが、態度は変彼らは、まるで出入りの御用商人のように、小佐野に頭を下げていて、彼らを相手にステーキ「沖縄の基地では、毎日ミルクがどれぐらい消費されるか知ってるか?当てたら一万円やろそれから銀座のパへ飲みに行くのだが、通りを歩いている聞も、素早くピルの空き部屋などを見つけ、「おい、あんないい場所が売りに出てるよ。あそこだったらきっと権利金は高いぞ」と言ってみたり、そうかと思うと、突然私の耳に、「私にはね、金なんて石ころみたいなものなんだよ。ほんとは金なんてどうでもいいんだ」などと噴ささやく。とにかく、話は金から絶対に離れない。これだけカネ、カネ、カネなら、態度も相当卑いやしいだろうと思うと、これがそんなことはない。立居振舞たちいふるまいはきちんとしている。顔から受ける印象がワイルドなので、動作も荒っぽいんじゃないかと思っていた私に、これは意外に思えた。だが、女といても金の話しかできない彼は、女の扱い方は不器用だった。女は好きだが女遊びは下手、という印象を持った。この年代の特徴を、彼もまた見事に備えていたわけである。毎月スケジュールを出させる凡帳面な性格のことは書いたが、彼はホノルルへ行く時、このスケジュールに合わせて出張するのだった。その頃、ホノルルにホテルチェーンを作ろうとしていた小佐野は、月に三、四度は東京ホノルル聞を往復していた。

どうやらあれは彼のテレ、あるいは流儀だったんじゃないかと思い当たわると、私は急に自信を取り戻した。その自信ついでに、例によってムクムクといたずら心が湧いてきたのは、私のいつもの癖である。「わたしは税関なんかフリパスだよ」少ない話題の中で、たしかそんなことを言ってなかったっけ?よし、ちょっと試してやれ。帰りの便で再度ファーストクラスに乗り込んできた小佐野に、私はスコッチを四本預けた。「税関なんかフリlパスでしょ。これ、制限オーバーなの。悪いけど預かってくれる?今晩会う時、持ってきてほしいの」ほかに酒を持っているのかどうか、わざと確かめないで押しつけるように預けてしまう。ゃにわに酒を持ってこられた彼は、私の真意を計はかりかねて、びっくりしたようだが、断わりはしなかった。少したじろいでから、気を取り直して「ああ、いいとも」とうなずく。その様子がおかしくて、私は心の中でククッと笑った。こういう怪物をカラカウのは、その辺のパーサーやスチュワドにいたずらするより一倍も快感がある。二十代前半の私は、男相手にこういうことばかりやって面白がっていた。そして、その夜、とにかく彼は無事スコッチを運んで来てくれた。「やっぱりフリパスなのね、どこでもそう?ならたいしたものね」おおげさ私が大袈裟に感心してみせると、「ああ、ちょろいもんだよ」と、胸を張ってみせた。ちょろい、という言葉と、単純に自慢してみせる様子が子どもみたいで、この時私はいっぺんに彼に好意を持った。私が好意を持つ男には、どこかに少年の面影おもかげが残っている人が多い。そうデ色町,’だろう」と考える。もちろんこれは、いつまでも乳離れしない、ということとは全然違う。充分大人になっているくせに、子どもっぽさもちゃんと持っている人のことを言っているのである。話題はすべて金の話小佐野賢治とは、こうして交際が始まったわけだが、つきあってみると、とにかく驚きの連続であった。とつびょうしきちょうめんデートの約束にしても、突拍子もない時間に予約を入れてくる。凡帳面な性格なので、毎朝七時には会社へ行っているのだが、七時半には電話してくるのだ。これは判で押したように正確だトの予定は?と聞いているのだ。朝の七時半である。そんな時間にデトの予約なんかしてくる男がいるものか。別にないと言うと、では、今晩七時に銀座の「みその」に来いと言う。この場所の指定も毎回同じであった。

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あんな卑怯なやっと結婚しちゃダメだぞ」なんて奴だ、人に黙って。うんざりした私は、とにかく「んちゃ」と言って別れることにした。いい男だけど、目立つことだけが人生、目立っためにはなんでもする、というんでは、うるさくてしょうがないではないか。家庭は舞台じゃないのだ。第五章孤独なるか怪物。||島県雄・小佐野賢治を取り巻く女と男たち何・’先程から、ずっとラウンジの白梅紅梅の額の下、西陣織の椅子に向かい合わせで秘書と話をしおきのけん巴ているのは、日本航空の大株主・小佐野賢治である。小佐野は、戦後実業界の怪物といわれていた。小学校を出ただけでのしあがってきた立志伝中らヲんの人物で、戦後のドサクサをうまく利用して閣で儲け、諌腕をふるって億万長者になった、という噂の持ち主だ。大柄の、熊を思わせるようなのっそりした雰囲気で、頭は、下のほうにグルリと毛が残っているだけで、上部にはほとんどない。私は彼の燃とは麻雀仲間だったので、お茶を運んだついでにそのことを言ってみると、彼は「ほう」と言いながら、あらためて私の顔を見直した。bpLそして二言三言、話をした後で、急に思いついたように、「君、貯金はあるかね」と三言い出した。突然の質問に私はウロタえ、つい本当のことを言ってしまった。ご銭もありません」呆れたように、横に突っ立っている私の顔を見上げる。「珍しいね。国際線のスチュワーデスなら一万くらいの貯金はあるだろうに」「そうですね。友だちなんかは、みんなしっかり貯金しているようです。でも私は全部使ってしまうんです」それを聞いて、彼は「まあ、そこにすわりなきい」と言って前の席を指差した。「いったい何に使ってしまうんだね。ぜひ聞かせてもらいたいね」そこで私は腰を下ろし、若い娘の計画性のない浪費ぶりを話して聞かせたのである。「面白いね、君は。どうだ、ホノルルの私のホテルで一緒に昼めしでも食わんか?」私の話のどこに興味を持ったのか知らないが、そういう小佐野に、私は「ええ」と返事した。大物財界人の私生活を観察するいい機会である。に耳そのころ彼は、日本人で初めて海外の資産を購入した実業家として、新聞を賑わせていた。ついひと月前の七月、ワイキキにあるプリンセス・カイユラニという、海に面した一室ほどのホテルを、八万ドル(一ドル三六円の頃で、二八億八OOO万円〉で買った、というのである。その前の年、彼は「京や」という、これもワイキキにある日本食レストランを手に入れていた。

なぜそんなことをするかというと、クリーニングは店によって仕上がりが違うので、その客がいつも使っているクリーニング屋の癖をのみこんでおかないと、シャツ屋はいい仕事ができないから:::、というようなことも知っていた。ひとつ持っていると便利だ”上回し、品のよいアクセサリーとしてレディには欠かせないものだ、とか、紅茶を飲む時、匙は器に触れないように使うベしなんてことや、ライターはやはりダンヒルが一番、ただし、腹を立ててウエッジウドのペンダントはブローチにもなるから、決闘ζ’-』るのだった。ところがそういう知識も、どこかのチンピラの体に鉛の玉をぶちこんだ話より、彼にとってはランクが下だったらしい。あまりひけらかす風でもないのだ。これは不思議だった。あんなになんでも自慢する男が、豊富で質のよい知識はひけらかそうとしないのは、どういうことなんだろう。彼にとって自慢するしないの基準は何なんだろう、と首をかしげたものだった。それが、最近になってようやく分かってきた。彼は、自分が主役でカッコよく活躍した話以外はすべてどうでもいいのだった。後に、結婚してから二人で経営していた青山ロブロイというライブハウス時代の話をしている時なども、私にとっては面白かった客のエピソードを「ああ、そんなこともあったな」と軽く流してしまう。すべて、自分が主役でなきゃつまんないお山の大将君は、他人のエピソードなど、特に語るほど価値のあるものじゃないのだ。なんと幸せな性格。彼のこんな性格をもっと早く認識していればよかった、と思う。そうすればもっと理解も深まっていただろうに。は、三年たってから、ということになる。しかし、このお坊ちゃんは万事がマイペースの男であった。仲よくなってデトを重ねるようになると、たちまち「女房とは離婚だあ」と騒ぎ出し、勝手に私との結婚を決め「君がお琴を弾ける部屋を作ったよ」などと言いだした。そして、あろうことかホノルルで会った私のポイフレンドを、ワイキキの浜へ決闘だと言って呼び出したのである。その時の様子は、彼があとで説明したところによるとこうであった。「おれ、君と結婚するつもりだからさあ、あいつ、砂浜に呼びだしてやった。絶対どっちかが死かっぬまでやるんだと思ってきあ、シャベル担いで行ったんだ。砂浜に穴掘って、殺されたほうがここに埋められるんだ、って言ってやったんだ。そしたら、あいつピピて、そんな野蛮なことはひきょう趣味に合わない、なんて言いやがんの。笑っちゃいますよね。