どうやらあれは彼のテレ、あるいは流儀だったんじゃないかと思い

どうやらあれは彼のテレ、あるいは流儀だったんじゃないかと思い当たわると、私は急に自信を取り戻した。その自信ついでに、例によってムクムクといたずら心が湧いてきたのは、私のいつもの癖である。「わたしは税関なんかフリパスだよ」少ない話題の中で、たしかそんなことを言ってなかったっけ?よし、ちょっと試してやれ。帰りの便で再度ファーストクラスに乗り込んできた小佐野に、私はスコッチを四本預けた。「税関なんかフリlパスでしょ。これ、制限オーバーなの。悪いけど預かってくれる?今晩会う時、持ってきてほしいの」ほかに酒を持っているのかどうか、わざと確かめないで押しつけるように預けてしまう。ゃにわに酒を持ってこられた彼は、私の真意を計はかりかねて、びっくりしたようだが、断わりはしなかった。少したじろいでから、気を取り直して「ああ、いいとも」とうなずく。その様子がおかしくて、私は心の中でククッと笑った。こういう怪物をカラカウのは、その辺のパーサーやスチュワドにいたずらするより一倍も快感がある。二十代前半の私は、男相手にこういうことばかりやって面白がっていた。そして、その夜、とにかく彼は無事スコッチを運んで来てくれた。「やっぱりフリパスなのね、どこでもそう?ならたいしたものね」おおげさ私が大袈裟に感心してみせると、「ああ、ちょろいもんだよ」と、胸を張ってみせた。ちょろい、という言葉と、単純に自慢してみせる様子が子どもみたいで、この時私はいっぺんに彼に好意を持った。私が好意を持つ男には、どこかに少年の面影おもかげが残っている人が多い。そうデ色町,’だろう」と考える。もちろんこれは、いつまでも乳離れしない、ということとは全然違う。充分大人になっているくせに、子どもっぽさもちゃんと持っている人のことを言っているのである。話題はすべて金の話小佐野賢治とは、こうして交際が始まったわけだが、つきあってみると、とにかく驚きの連続であった。とつびょうしきちょうめんデートの約束にしても、突拍子もない時間に予約を入れてくる。凡帳面な性格なので、毎朝七時には会社へ行っているのだが、七時半には電話してくるのだ。これは判で押したように正確だトの予定は?と聞いているのだ。朝の七時半である。そんな時間にデトの予約なんかしてくる男がいるものか。別にないと言うと、では、今晩七時に銀座の「みその」に来いと言う。この場所の指定も毎回同じであった。